電脳コイル 第１２話「ダイチ、発毛ス」

文句なしの最高傑作！

　毎年この季節になると戦争を題材にしたアニメが作られるものですが、その中のほんの少し、本当にまれにですが、戦死者をネタに安易なお涙頂戴アニメにしてしまう輩がおります。

　戦争に限らず、死んでいった人々を題材に作品を作るとき、それを作るスタッフには、死んで行った人々の言いたくとも言えなかった言葉を代弁する責任が発生する筈。

　しかしそれを意識出来ない輩。

　そんなのに限って一辺倒な描き方しか出来ない凡作が多く、しかし「戦争は嫌だ」「家族が死ぬのは見たくない」という至極まっとうなテーマを掲げているので、映像作品としての善し悪しと全く別の次元で、ありがたがられる。

　これは視聴者側にも問題はあるんですがね。

　さて、Ａパートでは単純にヒゲが生えるドタバタギャグかと思っていたら、展開は怒濤のカオスへと突き進んで行きます。

　文明が発祥し、ヤサコ神がそれを導き、やがて世界に争いが絶えなくなります。
　奢ったヒゲ達は自らの生きる指標である信仰を捨て、神は死んだという言葉と共に全面核戦争、そしてついには星間戦争へと突入。

　子供の素直な視点で「争いは良くないわ」と語りかけると、「ではヤサコ様達はケンカをしないのか」と返され、イサコや黒客との確執を思いだします。

　とてもシンプル。
　戦争というモノを、実に身近な例で子供達に解りやすく教えてくれます。

　無論、その中にはヤサコが推奨した宇宙開発が大量殺戮兵器のヒントになっていた事などをはじめ、次のステップまで考えられる子供にも、より深い政治や哲学を内包している作りが素晴らしい。

　そしてラストシーン。

　進化を急ぎすぎたヒゲ達は、今一度自分を見つめ直す為に「約束の土地」へと旅立って行きました。
　このヒゲ達が再び愚かな争いを繰り返すのか、次のステップへと進化するのかは、はっきりと描写されていません。

　しかし、子供達は今回の事件を経て、「戦争」について深く考えてみる切っ掛けを得たのでした…。

　…というディープなテーマを、顔中無精髭で覆われた可愛い女の子達が部屋の中で星間戦争、というシュールこの上ない映像にてギャグ仕立てで展開される、このセンス！

　いやもう、この作品の持つ懐の深さには恐れ入りました。

　戦争というものを、血の涙を流しながら語り継ぐ。それも一つの平和への手段です。
　しかし、ギャグで笑い飛ばしながら、その中に生まれる一抹のむなしさを学ぶ、という事が出来るのは、映像作品にしか出来ない手段。

　不謹慎とか言う無かれ。
　頭を柔軟にして、時には笑いながら戦争を語ろうではありませんか。