涼宮ハルヒの憂鬱 第９話「サムデイ イン ザ レイン」

　この様な何も起きない時間を描く、というのは、作り手としては非常に勇気がいる事であり、余程トンガった人以外はこの様な作り方はしません。
　それでも敢えてやったこの一見意味の無さそうな時間は、本当に意味が無かったのか。

　生きた人間を描く、という事。

　我々は普通暮らしていれば、電車の中での無為な待ち時間、風呂で、トイレで、ぼーっとして、と「何も起きない時間」というものを頻繁に体験しています。
　しかしそれをそのまま映像作品に移してしまうと、所謂「クソリアリズム」と言われるものになってしまいます。

　その為、「何も起きない時間」を演出する必要があります。

　今回殆どを占めたロングからのショットは、キョンの視点を外れた部分が中心となっており、メインの視点が入り込めない突き放した感覚を視聴者に与えます。
　天気は雨で、テンションも低め。そして長門さんの長回し。

　これらの演出を通して、視聴者は「何も起きない時間」の共有をし、それを感じます。
　このお話を見た我々は、学校生活でこの様な、テンションが上がりきらない普通の日常を送っていた事を思い出し、それを感じるのです。

　キョンやハルヒ達も「何も起きない時間」を過ごす生きた人間。
　机の上でスタッフが作った「アニメ」ではなく、そこに生きた人間を感じてください、というメッセージが、自ずと浮かび上がって来るわけです。

　これがいわゆる最終回に相当するものらしく、原作者自らの脚本で、物語を閉じずに終えました。
　ハルヒ達は、ずっと視聴者と一緒の時間を生きている、という夢を残して。