絵柄は粗く、腕や足が短かったり変な方向に曲がっていたりなど、正直言ってデッサンはとても巧い、という感じではありません。
しかし、パラパラっとページをめくっただけで猛烈に引き込まれる絵柄の勢いは凄まじく、弾けるようなキャラクターのポージングからはじまり、目の描き方のバリエーションの多彩さによる、その表情の豊かな事。
正確なデッサンではないのですが、そんなものを屁ともしない非常に高いマンガパワーを持った絵です。
この方の作品はとにかくキャラ立ちが強い。
ブラコンの姉とブラコンの妹が、それとは気付かない朴念仁の弟(兄)を奪い合うキャットファイトのラブコメディ。
特に姉の方は、保健室で寝てる弟にチューしようとしたり、弟と結局のところどうなりたいのよ、という教室内での友人の問いに、「そりゃモチロンできれば○○○○までしたいです!!」とか叫んじゃう暴走っぷり。
しかし決して下品にならず、むしろ清々しさすら感じるのは、キャラクターが読者に向かって媚びを売っていないところにあります。
また、本来の主人公である暴走姉も、芸もなくベタつくだけではなく、しっかりと恋する乙女として恥じらったり妄想したり駄々をこねたり。
キャラが本当に生き生きしています。
ただ、キャラが立ちすぎているのが、逆に難点にもなっており。
多分作者の頭の中では、この1冊の本の3倍から5倍くらいのネタがある筈で、しかもお話が進むにつれ、これまた濃い友人キャラがモリモリ登場して来ます。
もうキャラの魅力が飽和状態になっていて、ストーリーが機能しなくなってしまうくらい。
このキャラ立ちテンパり状態は今秋アニメ化されるヒャッコの方が著しく、キャラの数とその個性の強さを押さえ込めるだけの器が無い様に感じます。
そのせいか、もう既にヒャッコなどは原作自体がダイジェスト版の様な作りになっており、行動の隙間を埋めたり、また十分なストーリーの水増しをしたりして、構成をゼロから組み直さないと、何が何だかさっぱり解らないアニメになりそうです。
ぶっちゃけこの、1冊しかない「夕日ロマンス」を1クールものとしてアニメ化してちょうど良いくらいじゃないかと思う次第です。
しかし、このマンガが面白いのは間違いありません。
粗い絵柄で描き込みも多いのにとても読みやすく、端正に整ったハンコ顔ではなく、もう1コマ1コマ全部違う表情は、何度読んでも飽きが来ません。
「ヒャッコ」の楽しい学園ドラマも好きですが、「夕日ロマンス」で女の子達が見せてくれるジタバタ恥じらいコメディの方が、個人的には一押しです。
ヒャッコ 1〜3巻セット 著:カトウハルアキ (ソフトバンククリエイティブ)